響く音の話


 白川郷に行った時に不思議に思ったのだけど、あそこの女の人達はとても静かな声で語ります。落ち着いてるというんではない。無言で染み入ってくるような、そんな声で話します。印象としては無言で話している訳で、それにとても違和感を覚えた。



 声の大きさとかいうのはその土地にも根付くのでしょうか。白川郷は完全に観光地ではあるけども、最も有名な合掌造り観光スポットの和田家に早朝訪れると、うちら以外の観光客はおらず、仏間の鐘が(正確な名称が分からない)消え入りそうな位の振幅でどこまでも鳴り響いていました。葉から滴り落ちた水滴が音もなく水面を走っていく、映像化すればそんなような音でした。



 音はあるのに何も聞こえない。語っていないのに全てが伝わってくる。なんだか妙な話ですが、冬の白川郷とは、ときかれると、こうとしか言いようがありません。



 夜はとても静かでした。何の物音もないので、自分の瞬きをする音が聞こえてきそうな、そんな空気でした。
 寒い居間を横切る足、きしむ扉、闇の中で多分殆どの人々が夢を見ている、眠りのある空の下。



 ああいう所ではぐくまれたら、無言のまま染み入ってくる、そんな幻想的な声を手に入れられるのでしょうか。