夜風は逆走する


 限りなく現実に近い詩を。




 物事は、右に左に


 方向転換する瞬間が、一番エネルギー消耗する


 結果を言うは安し


 始まりを指定するのも


 よってエネルギーを用いて軽くターン。




 生まれてくる時の話。


 大気を胸いっぱいに吸い込むために、赤子は産声をあげるという。


 しかし実際の所本人にしか分からん


 生まれてくる時、赤子も激痛を伴い、這いだしてくるのだと。


 痛みは覚えていると良い事無いから、


 皆忘れてしまうけど。


 忘却は保身の現れ


 そうやって記憶を塗り変えていくように進化した生命


 忘却が悪いのではなく


 忘却するようにできているのだ


 でも忘れられるまでは辛いから、


 生き物は、涙を流す。




 軽くターン。




 感情が高ぶると出現する涙


 赤子は痛かったか?


 それとも嬉しかったのか?


 割れんばかりの泣き声と、涙。



 人は泣く。


 犬も泣く。


 この前見たけど、


 どうやらラクダも泣く。



 弱いとか


 強いとか


 義務とか権利とか


 作り物だとか武器だとか


 そんな閉ざされた条件は人が勝手に作り出したもの。


 生き物は多分、


 泣くように作られたのだ。


 泣く事が、


 むしろ泣く事でしか、


 生き物を救えない場面が多々あるのだろう



 ただ、


 皆。自然に出来ていた浄化作用を、


 自然とせず疑惑すら向ける中で正常な使用法を遠くに置いていってしまうのかもしれない。




 もうターンはしない。


 陸から海に向け風が動き出した。




 通り過ぎるまで。