人の為に死ぬということ

塩狩峠 (新潮文庫)

塩狩峠 (新潮文庫)

 三浦綾子塩狩峠です。



 この話自体はフィクションだけど起こった事件は本当だ。列車が塩狩峠を登っている最中に最終車両が前の車両を離れ、暴走。急勾配とカーブの連続、そしてブレーキがきかない。 青年は自らの体を車輪の下敷きにさせる事により、乗客全員の命を救った。



 三浦綾子はクリスチャンなので、話の展開がかなりキリスト教醸してます。不自然な位に。しかし終わってみると、それら全てが彼の人生だったのだと分かる。自己犠牲に向けての彼のベクトルを明らかに感じるのです。そして前提があるからこそすんなりと終末を受け入れられる。




 こういう人はいるんだよなぁ。ただ露呈する機会に恵まれるか否かで、誰かの為に命を投げうてるかは一瞬の幸運にかかっている。幸せも悲しみも紙一重に潜んでいて選択は不可能です。彼らのような人はすれ違っていった人々に多大な影響を与え消えていく。それが良いか悪いかは別にして、残された人々は、原罪のような重みを背負い前を向くしかない。ずっしりと巣くった姿にはあらがえぬまま。





 魂は愛する人の元に帰る。



 彼の恋人が線路に伏し泣く姿に、何だか涙をこらえる事が出来ませんでした。